永六輔の脳死・臓器移植観

『悪党諸君』152ページから153ページ

〔前略〕
 そのときにね、ふっと思ったの。脳死なんかが、今ちょっと問題になってますけど、それで僕、医者にお願いしたんですね。
脳死というのは、どういう段階をいうのか教えてください」
 そしたら、「わかりました」って、教えてくださった。そして、
「今、脳死です。もう脳死の状態です」
 つまり、脳死の状態っていうのは、ご臨終に近いのね。
 でもね、手を握ってると、手があったかいんですよ。あったかいしね、ドキン、ドキン、とちゃんと脈もうっている。そう、生きています、当たり前ですけど生きてる。だけど、臓器提供ということは脳死の段階で、心臓は誰さんに、肝臓は誰さんに、角膜は誰さんに、と渡していいということなんです。
 臓器移植法案というのは御存じですよね。僕ね、手を握りながらね、
「ええっ、ここで心臓もっていっちゃうの。ここで、角膜もっていっちゃうの。だって、まだあったかいじゃない。まだ目を閉じてないじゃない」
 と思いました。つまり、臓器提供ってそういうことなんですよ。僕はそのときにね、臓器移植法案ていうのは、絶対反対しようと思いました。
 ドナーカードに当人のサインが書いてあって、家族も賛成しようが、それは絶対違う!
 人間の生命が終わる前に、脳が死んでるからっていって、そんなふうに臓器を持っていっちゃうのは、絶対違う! と思いました。
〔後略〕