山本栄一著『言論のテロリズムII 「捏造雑誌」週刊新潮を解剖する 増補改訂版』鳳書院/2003年/ISBN:4871221296
2002年〔平成14年〕2月に刊行された同書の増補改訂版。加筆内容は2002年12月に、「北新宿での再開発に創価学会のダミー企業が暗躍した」との『週刊新潮』に対して創価学会名誉毀損で訴えた訴訟の最高裁判決が確定。新潮社側敗訴を受けてその経緯を加筆したもの。
「第四部 てい談「反人権報道」と戦うために」では松本サリン事件被害者・河野義行、弁護士・佐藤博史との鼎談を収録。
前著と比べると学会関連以外での『週刊新潮』による〝人権侵害報道〟を多数取り上げているので、それなりに外部の人間も読める体裁になっている。
「第三部 捏造報道は、どこから生まれるか」では『週刊新潮』の生みの親斉藤十一の「週刊新潮は報道ではなく文芸だ」という独特のセンスや社内の閉鎖性、「黒い報告書」「東京情報」など往年の名物記事の作られ方などについても言及されなかなか興味深かった。
惜しむらくはその分析が結局は党派的立場から(つまり創価学会から)の表層的批判に収斂されてしまっていることだ。学会系メディアが外国の識者の「定評のある文芸出版社が低劣なゴシップ雑誌を出すのは私たちの国〔ここにフランスだとかイタリアが入ったと思う〕では考えられない」といった趣旨のコメントを載せて新潮社の特異性や「人権侵害体質」「犯罪性」などといったものを際立たせようとすることがある。諸外国での出版産業事情に詳しいわけではないが、私自身も新潮社が日本の老舗出版社の中で独特の社風を築いていることに異論はない。新潮社には大日本雄弁会講談社岩波書店菊池寛が創り池島信平らを輩出した文藝春秋、反省会雑誌に起源を持つ中央公論社〔現中央公論新社〕などとは異質な独特の澱がある。学会系メディアが人権侵害報道と批判する「人間は皆一皮むけば金と権力と女」という斉藤イズムも偽善を極度に嫌うがゆえの過剰な露悪でありナイーブさの裏返しに見える。一見右寄りの編集方針を貫く新潮社の雑誌群だが、同じく右寄りと看做される文春や読売、産経と比べ皇室・天皇家に関するスキャンダル報道も多いし、えげつない。新潮社独特の社風の研究は斉藤十一、創業家の佐藤家の系譜をたどったノンフィクションにでもすればなかなか面白いものになるような気がするし、そういうアプローチからの研究が実を結べば、党派的な批判を越えた説得力のある新潮社批判〔必ずしも批判に持っていく必要もなくなるのだけれど〕が生まれると思うのだが。
まぁ学会系ライターに今それだけの筆力のある人はいないだろうしなぁ。
山本栄一は昭和4年〔1929年〕栃木県生まれ。学習院大学政経学部卒業後、読売新聞社入社。社会部記者を経て編集局連絡部長、編集委員を歴任。読売新聞退社後が学習院大学法学部講師も努めた。とのこと。反学会系メディア『FORUM21』によれば現役の創価学会員で壮年長を務めたこともあるそうだ。